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程なくして壮と同じ飲み物が、僕の目の前に置かれた。
この酒はまるで由布ちゃんだな。
僕と君はずっと前から由布ちゃんを取り合っている仲なんだと、象徴するかのようだ。
グラスを傾けて乾杯をした。飲むと焼けつくような独特の熱さが喉に染みわたる。美味い酒だ。
「仕事はどうだ、亜貴。忙しいのか?」壮が尋ねてきた。
「いいや、年末までだよ。こうやって飲みにくる時間ができたって事は、それほど会社が忙しくない証拠さ」
「成程」
「そっちはどうだ?」彼の仕事の現状がどのようなものか、聞き返した。
確か二年前に日本で、壮のカウンセラーが受けられるクリニックを開設したって言ってたな。
こっちに帰って来て由布ちゃんに接触しないか最初は心配だったけど、音沙汰も無かったから、実のところ壮の事は少し記憶から薄れていた。
勿論壮が戻ったことは、由布ちゃんに話していない。由布ちゃんが僕以外の男――特に壮の事を考えて欲しくなかったからだ。
話せばきっと由布ちゃんは喜び、笑顔で壮の元へ駆けつけていくだろう。そして僕との夫婦間の仲の事も、壮になら平気で相談するだろうその姿を容易に想像できるからだ。
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