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「話があるっていうのは?」
こちらから本題に踏み込んだ。
「あのね」と柔和な声で若大将は前置きをする。
ティーカップを机に置き、少し身を乗り出した。
「今日はお前のバディを紹介しようと思ったんだ」
「お断りします」
その手の話だろうなというのは予想できていた。
S001は遮るようにそう言って、頭を下げて振り返った。
部屋を後にしようと入ってきたドアに向かう。否、向かおうとした。
だが、足が止まった。
全身が硬直した。
人がいた。
兵士がいた。
ドアの丁度死角になる部分に、ひっそりと。
今目の前にいるはずなのに、自分の眼で確認しているはずなのに気配を感じない。
一瞬にして口内が干上がった。
もし、この男が自分を殺す気だったら。
自分はきっと、いや、間違いなく、抵抗する間もなく殺されていた。それどころか姿を目視する前に殺されていた。
殺されたと気付く前にきっと絶命していた。
決して屈強なわけではない。
自分と同じぐらいの細身だ。タッパも大してない。
そんな男は、フードを深く被っていた。
そのせいで顔はよく見えない。
「その男と組んで欲しいなぁって」
その言葉にハッと振り返る。
若大将はニコニコと笑っていた。
頼りないと蔑んでいたその笑みに、自分の顔が強ばったのが分かる。
その笑みの裏側に何を考えているのかさっぱり分からない。
不気味だった。
目の前にいる男も、後方に佇む男も。
閉塞感を感じた。
まるで側面から圧迫されているような気がした。
「ね?いいでしょ――ゼロ」
その渾名は聞いたことなかった。
これほどまでの手練れなら、名前が知れ渡っていてもおかしくないのに。
ゼロ。そう呼ばれた男の方を再び向いた。
この男に背を向けていられなかった。
その男が少し顔を上げた。フードに隠れていたその下が少しだけ露わになる。
目が見えた。
ひどく気怠げな目だった。
殺気は感じない。それどころか、やはりこの男の気配を感じない。
「ヤだ」
口が僅かに動いた。
間延びするような声だった。必要最低限の声量だったのに、その声は嫌なほど室内に食い込んだ。
大将。そう呼ばれる男よりもこの男のその掠れた一声のほうが威圧的にすら思えた。
S001は男の動きを縛るように目を配った。
ゼロとは一瞬たりとも視線がかち合うことはなかった。
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