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「――って言ったら、この話は無しになる?」
ゼロは自分の更に向こう側、若大将を見据えていた。
その声に敵意はない。当たり前のことなのに、確認せずにはいられなかった。
「なりまっせーん!」
背後から怖いほど無邪気な声がした。
その声に、目の前の男の固く結ばれていた口角が僅かに上を向いた。
「yes,sir」
その口が滑らかにそう動いた。
S001は大げさなほどに首を動かして若大将の方に向き直る。
「ふざけんな!勝手に決めてんじゃねェよ!」
態と声を張った。
この場の空気を少しでもこちらのものにしたかった。
そうしなければ、そう思っている時点でこっちの方が格下だ。
「えぇ?」
若大将は幼気な仕草で首を傾げた。
「確かにピンは強いよ?けど、その慢心で危機に陥ったらどうするの?誰がピンを助けるの?」
そんな状況が来るものか。
だが、もし来たのなら潔く死ねば良い。自分の代わりはまだまだ沢山いる。
使われてやってる身で、更に制約をかけてくるなんて鵜呑みに出来る案件ではない。
だが、その前に問うことがある。
「ピン?」
「そっ。お前の渾名」
覚えてね、ゼロ。
若大将がS001の更に後ろの言葉を飛ばした。
返ってきたのは「善処はする」というゆるりとした声だった。
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