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それは出会った時にかけられた強烈な魔法。
23歳、友だちの紹介で訪れたバーで、ホネを初めて見た。酔っぱらってカウンターに腰かけ足をぶらぶらさせていた。
ホネだけじゃない。全員わけがわからなくなっていった大晦日の夜だった。
壮志郎だってそうだった。一目でホネに目を奪われ、その夜はずっとホネばかり見ていた。
耳に入るホネの情報はミステリアスで都会的で壮志郎を骨抜きにした。ゲイで金持ちの愛人をしていて、若く美しく、夜に生息する浮かれた連中のアイコン的存在だった。
田舎から上京してきてごく平凡なとおりいっぺんの生活をおくってきた壮志郎にとって、ホネは自由や逸脱、クールさのかたまりのように見えまぶしかった。パーティーと音楽の夜、そのものだったといってよい。
うかれて騒ぐ美しいゲイに恋した。男に恋するなんて初めての経験だった。性別を越えて恋することで、自分自身がぶっとんだ存在になった気がした。
魔法にかかったのだ。
しかし15年におよんだ魔法はつい先日、とうとうとけたのだ。
ホネも年をとる。ケガをし、しょぼくれて車いすに乗った姿は、将来もっと年をとり自分たちのあずかりしれぬ何者か、老人というものに変貌する入り口みたいに見えた。
ホネはすっかり普通の人、十五年を経て普通のおじさんで、壮志郎と同じように社会の決められたルールに従い、働き、健康のためにランニングするただの人で、自分も特別な人を得た特別な存在とはほど遠い。同性パートナーを持つ平凡な中年男なのだ。
車いすのホネを見たあの日、何かが起きたわけではない。ずっとホネはホネのままだった。ホネのままホネとして変化し続けていた。ただ壮志郎の方がそれに気づかなかった。恋という魔法のせいで。
雪は一晩中降り続いていたというのに、翌朝突如それが現れたかのように驚いてしまった。バカだ。
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