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「……壮志郎?」
「好きだったなあって、好きなんだなあって」
日常と恋のバランス。日常が恋を凌駕してしまったとわかっても、恐ろしかったのはたった数日の話で、今はぜんぜん怖くない。ホネの背中を洗ってやりながら思った。記憶は地続きで、ポンコツになりかけた自分の身体にもホネの身体にも、二人の間にあったことがすべて刻まれている。
うなじに、脇腹に、ひじに、小指に、性器に、足首に、爪に、目元に、唇に。
「急になんだよ」
「俺、浮気してないから」
壮志郎はきっぱり言った。ホネはぐっと詰まる。
「『ラブチャンス』は昔のホネに少し似てたから気になってはいたけど、若い頃のホネのほうが百倍きれいだよ」
「……それはどうもありがとう!」
ホネは壮志郎の言葉をいつものように斜に構えていなすけれど、裏側に安堵が含まれていた。ここ数日壮志郎がおかしいことに気づいていたのだろう。
犬を飼いたがったり、保育士になったり、ランニングを始めたホネ。自分たちの子どもが欲しかったホネ。壮志郎は自分がとても愛されているのだと、今さらみたいに実感する。
「で、やるの、やらないの」
「やる」
肌をあわせるのはいつぶりだろう。昔は時間の許す限り、いや、許されなくても愛し合ったというのに。
「う……」
「なかなかはいんないね」
「やらなさすぎて、もう……なんか、ちょっと怖いからゆっくり」
「ごめんね、ここ、処女みたいになっちゃったの俺の責任だ」
「……っ、あ、……」
「大丈夫?」
「ん、平気」
「足は?平気?」
「ん、……それ、あ、」
「ホネ……狭い……、はあ、すごく気持ちいいよ……」
キスを求めると、もう身体はつながっているというのに、ホネは顔をそむけて恥ずかしがった。その姿にこちらも妙に照れて、でもがんばって唇と唇をふれさせた。
身体は固いのにそこは変わらず健気に柔らかく弾力があり、壮志郎の心をぐずぐずにし、くじけさせた。
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