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「大丈夫だよ、航」
斗真の声は優しくて、まるで日溜まりのようだった。
その声にほっとして、俺は声をあげて泣く。
まるで子供みたいに。
斗真はそんな俺を優しく両の腕で包み込む。
温かい。優しい。
今朝、どうして俺はこんなにも穏やかな空間を自ら突き放してしまったんだろう。
俺は斗真の背中に手を伸ばすと、その胸に頭を預けて、また、泣いた。
だから知らなかった。
翔琉がいつの間にかいなくなっていたことに。
斗真の腕の中で散々泣いた後、次第に涙が止まり始めると、さすがにこの状況が恥ずかしくなってきた。
俺はそろそろと顔を上げて、斗真の顔を見る。
斗真は俺の視線に気が付くと、ん?と首を傾げて俺を見る。
ただただ優しいその視線を受けて俺はまた恥ずかしくなった。
翔琉の時とは確実に異なるどこか穏やかな気恥ずかしさだった。
俺は、斗真に視線をやらずに答える。
「……た、助けてくれてありがとう」
「ううん、無事でよかったよ」
斗真はそう言って俺をぎゅっと抱きしめた。
ふいに高くなった自分の鼓動の音が聞こえた気がした。
斗真は続けて言う。
「……当の本人は何処かに行っちゃったみたいだけど」
「え?」
俺はそう言って空き教室を見渡す。
そのどこにも翔琉の姿は見えなくて、俺が泣いている間に先に帰ったことが分かった。
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