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次の日の朝、俺はいつものように家を出る。
いつもなら二人が待っていてくれているはずなのだが、今日は翔琉の姿しか見えない。
不思議に思いながら、俺は翔琉に話しかける。
「あれ、今日は斗真いないの?風邪、とか?」
「さ、さぁ」
翔琉の歯切れの悪さに内心、首を傾げながらも言葉の続きを待つ。
「……あの、さ。……昨日は、悪かった……よ……あんなことして」
それは、随分と細切れの謝罪で、俺は翔琉が翔琉なりに誠意をもってその言葉を伝えていることが分かった。
しょぼくれて謝る翔琉を前にして、あぁと思う。
そんなことをまだ気にしていたのか。
昨日の今日でそんなこと、と思うのはちょっと違うのかもしれないが、俺からしてみればもう終わったことなのだ。
「もう、怒ってないから」
……でも、昨日のことが翔琉だったから許せたのかも、そう心の中で付け加えながら俺は言った。
もちろん、その後に、釘を刺すことだけは忘れなかったが。
「でも、二度と昨日のような真似はするなよ」と。
翔琉は笑って一つ頷く。
いつもこんなに素直だったらいいのに、そう思わずにはいられない笑顔だった。
そうやって俺たちが仲直りをしていると、どこからともなく斗真が現れた。
斗真の姿を見て、翔琉の表情が少し強張ったようにも見えたが、見間違いかもしれなかった。
斗真は俺たち二人の姿を見て、それについて何を言うでもなく、にっこりと笑った。
「では、登校しようか」
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桜が舞う高校二年目の春。
彼らの物語が動き出した瞬間だった。
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