戸惑う執事

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戸惑う執事

晴れた午後、庭園の一角のバラ園にてティータイム中に事件はおこった。 「ねえアベル、あなたとは少し距離をおきたいの」 紅茶を飲みおえたオーリ様の口元を拭おうとした時、ゆっくりと差し出した手を制されてそう告げられたのだ。 「はっ、オーリ様とは常に一定の距離を保ち控えさせていただいております。いわゆるパーソナルスペース分は離れておりますが、刺客や下賎な視線からお守りするためにも、本当はマントの下にお入り頂きたいのぐっと我慢しているのです。これ以上離れることは了承できかねます。」 至極まっとうなことを述べたはずなのに、オーリ様は頭を抱えてため息をついた。 「貴方が私を大切に思ってくれている気持ちは分かるのよ。でも、私はもう16歳なの。貴方の束縛がくるしいの。」 「お言葉ですが、願望はあれど、オーリ様を縛ったことはありません。オーリ様の肌に傷がつくことは許可できません。」 「うあぁ。そんなことおもってたの!もう嫌!お父様にお話しして侍女をつけてもらいます。」 姫は可愛く半泣きになって、プリプリ怒りながら続ける。 「なんでいつもふざけたことばかり言うの!私は真剣に考えているのに。そうやってごまかすなんて酷いわ!私はもう子供じゃないの!大人として扱って」 ここまで興奮して怒る姫は初めてで、(今すぐ絵師を呼び寄せて、可愛く紅潮したお顔を後世まで残したい。)そんな願望と戦いながら、答えた。 「全て真剣に考えて行動し、お応えしております。姫を愛しておりますので、多少干渉が過ぎてしまったことはお詫びいたします。ですが、全てはオーリ様への愛故なのです。」 カァッと一層赤くなった目の端からはポロポロ涙が流れ落ちていく。 (ああ、涙が落ちてしまう。もったいない) そんなことを考えていると、オーリ様が勢いよく立ち上がり、涙声で命令した 「貴方にはしばらく接近禁止命令をだします。貴方の反省が見られなかった場合は、私の執事から外して僻地の警護兵にでもなってもらうわ。もう一度よく考えて、何処がダメなのか。」 そういうと、全速力で走り去ってしまった。 俺はあまりの出来事に硬直して、なみなみ溢れるカップに紅茶を注ぎ続けてるしかなかった。
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