落花生

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落花生

 俺が学校から帰宅して居間のソファでくつろいでると、70パーセントの確率でお前が家にやってきて俺の隣に座る。それで一緒に、テレビを見ながら笑うんだ。お前の役目は千葉名産の落花生の殻を剥くこと。俺はそれを食べること。たぶん俺たちが高校を卒業するまで変わらない、日常。ピーナッツを渡されるとき、いつも指先が触れる。震えないように気を付けるようになったのはいつからだったろう。もう覚えていない。  お前が俺のほうを見ている気がするけど、それは気のせいだろう。俺が自意識過剰なだけだ。テレビに夢中になっている振りをするのも、ほんと滑稽で嫌になる。ピーナッツを咬み砕く。ポリポリと口のなかで音がする。芳ばしい匂いが鼻に抜けた。催促するようにお前に手を向けると、すぐにピーナッツが載せられる。またお前の指先が触れた。 「食べ過ぎじゃない?」  俺より声が低いのとかムカつくけどカッコいい。 「そう?」  お前の言う通りだった。鼻の中が温かくなって、俺は慌てて上を向いた。鼻を手で押さえると、お前の手が重なってきた。思い切り自分の体が揺れた。 「ダサ。鼻血とか」  呆れた風に言いながらも、お前は手際よく俺の鼻血をティッシュで拭ってくれる。 「いっつもムキになって食べてるよな」  テーブルの上の、落花生の殻が積もったティッシュに、血に染まったティッシュをお前が落とす。  以前は小皿も置いていた。それにピーナッツを入れていたんだ。俺が食べる用に。 「なんでいちいち手渡ししてくんの? ピーナッツ」  間違った。鼻血の後始末のお礼を言うべきだった。 「やっと訊いてくれた」  お前が目を細めて薄く笑った。たくらみが成功したような顔。  テレビの音が小さい。俺はリモコンを取ろうとテーブルに手を伸ばした。が、お前が先にリモコンを取りあげ、テレビを消した。  してはいけない質問を、俺はしたようだ。俺たちの関係が変わる質問を。了
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