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布団の中から、ベランダで洗濯物を取り込む母の後ろ姿を眺めていた。
確か季節は冬で、寒そうにふるふると小さく震えた肩と、かじかんでいるんだろう、ほんのりと赤く染まった指先や、鼻先。今と同じような西日に照らされた横顔。些細なところまで全てよく覚えている。
さむい、さむいと言いながら洗濯物を抱えて戻ってきたお母さんが、ふと私の方を見て、
「こんなに寒いのに、汗びっしょりだね」
なんて、ほんのわずかに眉を下げて微笑んだ。
そうして、私のそばまで来ると、洗濯物を置いて腰を下ろしたあと、ひょいと衣類の山からタオルを取り出して、まるですぐに崩れてしまう豆腐を扱うみたいに、私の額や頬、鼻の頭を弱く拭ってくれた。
「汗をかくのはいいことだよ」
もうすぐ治るね、そう言って汗でびっしょりと濡れた私の髪を撫でてくれた、タオル越しのお母さんの手の温もりは、幼い私の涙腺をぐっと刺激した。
熱が溜まった顔を、涙でさらに目頭を熱くして、鼻水を垂らしながら泣いた私を、お母さんは黙ってタオルで涙を拭いながら見守っていた。
過去の思い出に思いを馳せていると、冷気に晒された肩がぶるりと震えた。
あーさむいさむい。そう呟いて、窓際から離れる。
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