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「なんだよ、俺はしっかり覚えてるっていうのによ。三浦陸(みうらりく)だろ? 俺は野島圭介(のじまけいすけ)。覚えてな?」  中学の頃の大会で、野島とはよく一緒に表彰台へ上がっていた。 「同中からここ受けたのいないんだよ。よろしくな!」 「俺も。よろしく」  野島とこうして話すのは初めてだったが、人懐こい性格で明るいからすぐに打ち解けた。 「室内プールがあるっていいよな。シーズンオフのトレーニングとか苦手でさ」  公立中学のプールはほとんどが屋外だろう。  その為、水温が上がらない季節はランニングや体幹を鍛えるトレーニングが主になる。  この学校も公立だが、流石強豪校。水泳施設の充実ぶりは私立高校にも負けない立派なものだった。 「一年中泳げるのは嬉しいな。スクールに通わなくても良さそうだし」  顧問の後藤田先生も以前は有名な水泳選手だったらしい。  良いコーチと良い施設が学校にあるのなら、外部のスイミングスクールに行く必要は無い。  そんな事を話しながら昇降口を出ると、満開の桜の木々たちに出迎えられた。  穏やかに吹く風に揺らされた枝から、ゆらりと舞い落ちる花弁の中を歩き、校門を抜けると大きな駅と立ち並ぶ商業施設が眼下に広がった。  この学校は名前の通り、桜坂駅から緩やかな坂道を登りきったところに建っている。     
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