46人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
そういえばずっとスマホの電源を切っていたことを思い出した。ジーンズの後ろのポケットに入れたままのスマホを取り出して電源を入れると、表示された文字に目を見開いた。
――不在着信、108回。
異常な回数に慌てて詳細の画面を開くと、野島と浜崎、それに母の番号が入り乱れて表示されていた。
妙な胸騒ぎがして、背中に冷たい汗が流れた。
落ち着け、そう言い聞かせ深呼吸を数度繰り返してからまずは誰にかけようか……そう迷っていると109回目の着信に手の中のスマホが震えた。
母からだった。
「母さん!? まだ仕事じゃ……」
蝉の音が鼓膜に張り付いたように煩く響く。
「ごめ……よく聞こえな……」
電話の向こう側でしゃくりあげる母の言葉が上手く聞こえない。理解できない。
煩い、少し黙ってくれよ。
蝉へ悪態をつくが、この雑音は蝉ではなく、耳鳴りだ――。
脳が拒絶しているのだ。事実を事実として受け入れることが出来ない。
だってそうだろう?
数時間前まで笑っていたじゃないか。
“お兄ちゃん”って呼んでたじゃないか。
それが……どうして……?
『……海奏が……死んじゃった……』
母の消え入りそうな声に、俺はその場で立ち竦んだ。
最初のコメントを投稿しよう!