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「あなたは具合が悪くなって倒れかけた私を助けた。それだけ言えばいい。余計なことを言えばあなたも暫く帰れなくなる」  倒れ込んだ俺たちの元に駅員が駆けつけてくる間に、彼女が早口で呟いた。  命懸けで助けたのに無粋な態度を取られ、文句のひとつでも言ってやろうかと思ったが、30分ほどの事情聴取の後、すぐに迎えの車が来て何も言えないまま妙な気持ちだけが残った。  彼女の名前は、結城希空。桜坂下女子高等部の1年生だった。  一切の光を宿さない瞳は死を映していた。  あの学校に通えているということは、恵まれた環境に身を置いているということ。  今も、未来も確約された人生のはずなのに彼女の暗い瞳に未来は見えていなかった。  現在(いま)さえも。  帰宅すると玄関の前で海奏が待ち構えていた。 「お兄ちゃん!」  涙目で駆け寄ってきた海奏に何事かと驚いていると「学校から電話かかってきたんだよ。頭打ったって……」そう言われて思い出した。 「ごめん、すぐ連絡するつもりだったんだけど……取り敢えず病院で検査したし、異常はなかったから」 「うん、聞いたけど……今まで何してたの? 途中で倒れたのかと思ったじゃん」  本当は話さないでおこうかと思っていたが、これだけ心配をかけておいて嘘をつくことは出来なかった。 「桜坂の駅で人を助けたら事情聴取された。取り敢えず中入ろう」     
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