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5.
初めて訪れた結城家は想像以上に広かった。
どこまで続いているのか分からない程の外壁に重厚な鉄の門、その奥にはまるで公園であるかのような敷地が広がり、その先に民家というよりホテルと言った方がしっくりくる建物があった。
玄関先までベンツで乗り入れると、燕尾服を着た中年男性が車のドアを開けてくれた。
俗に言う執事なのだろう。本物は初めて見た。
「こちらへ」
佐伯さんに案内されたのは病室さながらに医療器具が揃えられた部屋だった。
そこにあるベッドへ彼女を寝かせると、佐伯さんは聴診器を身につけ、慣れた手つきで診察を始めた。
「少し心音が乱れてます。暫くの間安静に」
「話すくらいならいい?」
「あまり興奮するような話は避けてくだされば」
そう言って佐伯さんが部屋のドアの前で立ち尽くしている俺を見た。
「俺、まだいるから少し休みなよ」
「横になってるから大丈夫だよ。心音が乱れてるのもさっき佐伯くんが泳ぐの見て興奮したからだと思う。すぐに治まるよ」
結城希空について分かったことがある。
彼女はなかなか強情で、すぐに無理をする。
「実はちょっと腹減ったんだ。佐伯さんも減ってません?」
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