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玄関を開けると、一人暮らしの僕の家に、僕以外の何かの気配を感じた。
明かりは消えたまま。玄関から入る薄明かりで、部屋の真ん中にこんもりと盛り上がっている影が見えた。
腕時計を見る。日付と時間を確認すると、僕はため息を吐いた。
手探りで壁を触り、スイッチを押す。気配の正体が蛍光灯の元にさらされる。
部屋の真ん中には一台のこたつ。そしてこたつ布団にくるまる女の子。
「おや、お帰りなさい」上体をむくりと上げ、間延びした声で彼女は迎える。
こたつの電源はしっかり入っている。僕はまた、ため息を吐いた。
「帰っていたなら、明かりとエアコンも点けて欲しかったんだけど」
「それは無理」彼女はさらに体を埋める。一瞬たりともそこから出るつもりはないらしい。
僕は仕方なくエアコンのスイッチを入れ(こたつがあるので設定温度を低くした)、コートをハンガーにかけ、今朝取り込んでそのままにしてあった洗濯物をたたんでしまい、その他諸々の家事を済ませ、ようやくぬくもりの中に体を埋めた。
「相変わらずまめだねぇ。寒い中帰ってきたんだから、さっさと入ればいいのに」彼女はあくび交じりに言った。
「後回しにすると溜まっていく一方なんだよ、特にこたつがあると。先に帰った人がやっていてくれれば僕も楽なんだけどね」
「それも無理。わかるでしょ」
僕はもう反論する気もなくなって、今は冷え切ったこの体を温めることに専念した。
「いつ帰ったの」
「ついさっき」
「事前にわかっていたら早く帰るようにしたんだけど」
「こっちだって急なんだもの。仕方ない」
僕は肘をついて、一年ぶりの彼女の姿を見る。こたつの熱を随分と取り入れたらしく、赤らんだ頬は、とろけたマシュマロを連想させた。
その姿も、声も、一年ぶりだというのに懐かしさを感じさせない。いつも一緒にいたような感覚は、一年経っても彼女の容姿が全く変わっていないからかもしれない。
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