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「なんだよ」
「まだ強張っているみたいだから、ほぐしてあげようと思って。こたつと私、ダブルのぬくもりで」彼女は頭を僕の肩に乗せた。
「天然の湯たんぽだぞ。温かいでしょ?」
「……何も感じないよ」
「素直じゃないなぁ」相変わらずと、彼女は笑う。
「あんまり無理しないでよ。大事な体なんだから」
僕は彼女から顔をそむけた。答える代わりに、僕の方からもう少しだけ、彼女に近づいてみる。彼女は口元に手を当て、うふふと笑った。
「少しほぐれてきたかな」
「……うるさい」
「あ、ねえみかん食べたい。みかんとって」
「我儘め」
僕はこたつから出て、棚の上に置いてあるみかんを一つとり、彼女の前に置いてやる。ついでにリモコンも取って、テレビをつける。
彼女はみかんをころころと転がしながら、またうふふと笑う。際限なく食べられると公言するくらい、みかんは彼女の大好物だった。実際ごみ箱が皮でいっぱいになるほど食べたことがあり、記念にと、その時の写真がスマホに残っている。その日からしばらく、指先の黄色が落ちなかったのを覚えている。
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