1. こたつ無しじゃ生きていけない。

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こたつというものは、棘を溶かしてくれる存在だ。 寒空の下、悴んだ手足を暖め、刺さったような冷たさを溶かしてゆく。 また、こたつに入ると誰もが顔を緩ませ、日々の疲れという名の心に刺さった棘をも溶かす。そもそも人々は大概こたつを「炬燵」ではなく「こたつ」と書く。そんなところで、もう字面から溶けきったような物なのだ。 そんなこたつに、歌にもあるように、一匹の猫がやって来る。ただそれだけなのに、こたつの中の人々は見て癒される。溶けきった顔でそれを可愛がる。 実に不思議だ。 猫は可愛がって貰うためにこたつに寄った訳ではない。本能的に暖を取ろうとして集まってきたのだと、私は思う。 猫がこたつに入るだけで人から可愛がられたり、歌になったりするのなら、人がこたつに入っても可愛がられて可笑しくはないだろう。それか、私が猫耳カチューシャをつければいいのか。 ……そっちの方が需要がありそうだ。 ……なんて色んな事を考えて、学校からの帰路を辿る。今日は本当に寒く、冬制服にセーターとコート、手袋、マフラーにイヤーマフまで付け、カイロを二個も持ってきたというのに、死ぬほど寒いのだ。最悪なのは電車の接続が大変悪く、10分程駅のホームで待たされたことだ。殺す気か。 でも、今日は先程から考えていた、「こたつ」が家に届いている筈だ。 ……もちろんこたつに一回も入ったことが無い訳ではない。小さい頃は家にこたつがあったのだが、いつしかこたつのコンセントが壊れ、ただの布団机になってしまっていたのだ。それを約10年ぶりに購入した。10年も経てばこたつも少しは変わっているのだろうが、やはり子供の頃に感じた、「溶かす」という能力はいつになっても変わらないのだろう。こんなに冷たい、肌に刺さる棘を早く溶かしたい。 早く家に着け、私。あの橋を渡って角の住宅街に入ればお前の家はすぐそこだ。
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