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大学4年の梅雨入り前、早い段階で就活は終わった。 というのも、ラッキーな事に、トントン拍子で内定を貰うことが出来たのだ。 春から勤めるIT関連の会社は、ここ数年で波に乗り、業績を上げていた。 別に憧れていた職でも、どうしてもやってみたい事でもなかった。 ただ、人生の流れの中で、卒業して就職する、それが当たり前なんだと思っていた。 安心しきっていたところに、落とし穴は用意されていた。 寝耳に水、青天の霹靂。 点けっぱなしのテレビからニュースが流れてくる。聞き覚えのある会社名、聞き間違いかと思い、画面を見た。 信じられなくて、電話をかけてみたが、既に電話は繋がらなくなっていた。 「…嘘だろ…?」 呆然として、座り込んだ。 内定取り消しの連絡も何もないまま、その会社は倒産して、俺は周りに出遅れる形で、再度就活をする事になった。 世間は夏休み、照りつける太陽は肌を刺し、じっとりと暑い、蝉のうるさい夏の事だった。
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