忘れられない夜

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そう言い残し喫煙ルームに足を向ける。俺の姿を目で追っていた隼人が立ち上がろうとした。 「テラスにはいかないよ。あの扉が喫煙ルームになってるんだ」 以前は一緒にベランダに出て煙草を吸う間、隣にいてくれた。風上になるように時々立ち位置を変え側で色んな話をしてくれていた。それもこれからないと思えば少し寂しい気もする。 ドアを閉めても部屋の中は見渡せる。そろそろと立ち上がった隼人はダイニングの椅子を持ち、喫煙ルームのそばに置いて座った。 その意図するものはなんなのか。隼人を観察するように見ていれば何度もこちらに視線を向けながら窓の外に視線を移す。ガラス戸を隔てた俺と隼人。言葉を交わすこともなく何度となく見つめ合った。吸い終えてドアを開けたと同時に隼人は立ち上がった。 「どうした?」 その身体をやんわりと抱きしめれば背中に手が回りフッと息を吐いた。 「琥太郎さんは…これからもここで煙草…吸うんですか?」 意外な問いに身体を離し瞳を見つめた。 「僕ね…琥太郎さんが煙草吸う手が…好きなんです…長い指と白い煙草…凄く綺麗で見ていたい…」 俺の手が好きだという意外な答えに、ただそんなことでさえも堪らなく嬉しさが込み上げてくる。     
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