2人が本棚に入れています
本棚に追加
ピーンポーーン
「はぁーい、どっちらさまでーす...か」
「 .....」
「なんだ、琉生か。」
「...なんだってなんだよ、サト。」
インターホンの合図で一軒家から出てきたのは、佐都中サト。
この家の次女である。
「なんだってなんだよってなんだよ。」
「もう、今日は時間がないんだよ...お願いがあってきたんだ。」
琉生が真剣な顔で...真剣というよりは切羽詰まったような顔でお願いがある、と言ってきた。めずらしい。
「聞いてあげるわよ。なに?」
「この子を、預かっていてほしいんだ。僕が迎えに来るまで、家から出さないで。」
そう言って、塀の影から出てきたのは同い年くらいの女の子だった。
「この子を?いいけど、なんで?」
サトの家は基本的に奔放だ。一人くらい人が居てもなにも言われないだろう。
「細かい話をしてる時間がないんだよ...」
琉生がそう言いながら女の子の背中を押し、サトの方にやった。
それから、A4位の紙を4つ折りにしたものをサトに手渡した。
「ここに書いてあるから、お願い。」
そう言うと、琉生はサトの返事も待たずに走っていってしまった。
「はぁ?おい!琉生!せめて紹介してから行けよ!!」
サトは名前もわからない女の子と二人残されてしまった。
「...あー、もう。わかったよ。で、君。名前は?」
サトはやれやれといった風に家の中に帰りながらたずねた。
「....ぇ-、ぁい」
「アイ?アイっていうのか。ふーん、」
「........ 」
女の子が小さく呟いた声にサトは気づかなかった。
「私はサトね。よろしく。」
サトはよろしくと言って右手を差し出した。
「......」
アイは、じっとその手を見つめるだけで握手には応じなかった。
「なによ、握手知らないの?こうするのよ」
そう言いながらアイの右手をつかみ、もう一度、笑顔で「よろしく」と言った。
数秒後、手を離したらアイは自身の右手をじっと見つめ、
「...よ、ろしく」
と言った。
「うん、よろしく。あ、ごはんは食べたの?琉生もこんな時間に来なくてもいいのにね。もう20時だよ。うちはご飯済ませたけど、アイちゃん食べてきたの?ご飯要らない?」
そのサトの親切な言葉に、アイはコクンと頷くだけだった。
その頷きをご飯要らない?の質問にたいしてのものだと思い、「食べてきたんだ」とだけ返し、アイを連れて自室に入った。
最初のコメントを投稿しよう!