第1章

2/13
前へ
/13ページ
次へ
僕とお父さんの散歩道 ようすけのとうちゃん 朝起きたらとても気分が良かった。 覚えていないくらいずっと前から体がだるくて、気持ちが悪くて、ずっとまるまって寝ていたのがウソみたいに体が軽くて、飛び回りたくなるくらいだった。 最後に思いっきり走ったのはどのくらい前だったんだろう。 最後に公園に連れて行ってもらったのは、寒くなって暑くなって、また寒くなったそのずっと前だったはずだ。 僕は歳をとって、足元がおぼつかなくなって、走ることはおろか、歩くことも億劫になっていた。 それでも散歩は大好きなので、どんなに辛くても連れて行ってもらっていた。 それでも、最後に散歩に連れて行ってもらったのはもっとずっと最近なはずだけど、それでも何日前だったか思い出せかないくらい前だった。 おとうさんは毎日、僕と散歩に行きたくて僕をのぞき込んでくれていた。 散歩に行けなかったのは僕が元気がなかったからだから、僕のせいだった。 毎朝、毎晩、散歩に行きたい僕の気持ちも悲しかったけれども、残念そうにうなだれているおとうさんの匂いも悲しかった。 でも、今朝は本当にとっても元気で気分がよかった。 今朝はお父さんと散歩に行ける、と思ったら自然に尻尾がぶんぶんと揺れた。 僕はボーダーコリーという種類の犬だ。 お父さんやお母さんは僕のことを暖炉って呼んでいた。 お父さんやお母さんは他人に僕を紹介するときに、リビングで暖めてくれるから暖炉という名前にしたんですよ、と言っていた。 僕は暖炉というのがどういうものなのか知らないのでよくわからなかったけれども、暖炉という名前は好きだっだ。 僕はお父さんを探した。 お父さんはリビングにいた。 おとうさんは僕がいつも寝ている椅子の前に座っていた。 背中を丸めて僕の寝床を静かに見つめていた。 おとうさんは毎朝、散歩に連れて行ってくれる。 お休みの日はパン屋さんや日向村まで長い散歩に行ってくれる。 普通の日も水の公園やコンビニまで連れて行ってくれる。 今日は何曜日なのか知らないけれど、僕はおとうさんの後ろに座って、声を掛けてくれるのを待った。 今日はとっても気分がいいから長い散歩がいいな。 公園に寄って、ボールを投げてくれるとすごく嬉しいけれど、普通の散歩でも充分嬉しかった。 おとうさんは肩をすぼめたままじっとして動かなかった。 僕はそっとおとうさんの耳の後ろのにおいを嗅いでみた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加