第1章

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悲しいにおいがした。 おとうさんが悲しい気持ちになっているので僕も悲しくなった。 おとうさんは僕の椅子から黒い塊を抱き上げて立ちあがった。 「行こうか」 お父さんがそういったので、僕は嬉しくなった。 行こうか、は散歩に行くときの合図だったから。 しっぽがまた勝手に大きく振れた。 僕はお父さんの踵に鼻をくっつけて玄関に向かった。 お父さんはリードとウンチバックを持って玄関を出た。 僕はリードにつないでくれるのを待っていたけど、なんでだか、今日は僕にリードを付けてくれなかった。 僕はお父さんとリードでつながっていると安心する。 リードでつながっているとお父さんを引っ張ってあげることもできるし、僕が危ないときや、いけないものを食べようとしたときはお父さんが引っ張って教えてくれる。 リードは僕とお父さんをつないでくれる大切なものだった。 でも、今日お父さんは僕にリードをつけてくれなかった。 僕を置いて玄関を出てるので、僕は慌てて後を追った。 ちょっと寂しかったけれども、お父さんと散歩に行けるのがとても楽しかったので我慢した。 僕はおとうさんの脇にぴったり付いて一緒に歩いた。 うちを出て、左に曲がって、お稲荷さんの横を通る細い路地をまっすぐ歩いた。 今日は僕の大好きな草ぼーぼーの公園の方に行くみたいだった。 僕は嬉しくなってますますしっぽを高く振った。 草ぼーぼーの公園は遊具もなにもなくて、いつも雑草がおいしげっていて、めったに人がいない公園だ。 ここに来るとお父さんはリードを放して僕とフリスビーやボール遊びをしてくれる。 僕はおとうさんとここで遊ぶのがなにより大好きだった。 最近では足腰が弱くなって、思った通りに体が動かなくなって、フリスビーを思い切り放り投げてもらっても追いつかなくなっていたけど、今日はとても身が軽くて、どんなに強く投げても取れるような気がした。 お父さんは両手で黒いモノのを抱えたまま、黙っていつもの散歩道を歩いた。 思った通り、おとうさんは僕を草ぼーぼーの公園に連れてきてくれた。 僕はもうこれ以上ないくらい嬉しくなって、公園の中心まで走って行った。 お父さんも遅れて公園に入ってきた。
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