第1章

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 僕はお父さんの周りをぐるぐる回って準備OKのアピールをした。 一周するごとにお父さんの顔を見て、投げる準備ができるのを待ったけれども、お父さんは腕の中の黒い塊を覗き込んだきり動かなかった。 僕はお父さんの顔を見て、僕がとっても元気なことを伝えた。 僕は言葉を話すことができなくて、お父さんに話しかけてもらうことしかできないけれども、お父さんは僕のことを世界中の誰よりも知っていてくれていることを、僕は知っていた。 おとうさんは公園の真ん中でしゃがみ込んで黒いものを地面にそっと置いていた。 「暖炉…久しぶりに来れたな。お前の一番大好きなぼーぼー公園だぞ」 おとうさんは僕ではなく、黒い塊に向かって僕の名前で語りかけていた。 僕はゆっくりとおとうさんに近づいた。 おとうさんの足元にある黒い塊は、小さい犬だった。 艶のない毛並みがぼさぼさになった、みすぼらしい、僕よりずっと小さい犬だった。 お小さい犬はぐったりとして動かなかった。 僕が鼻を近づけると、僕の鼻先にぼたぼたっと水が落ちてきた。 背中を丸めて泣いていたお父さんの涙だった。 大粒の涙を吹き出すように滴らせて、喉を詰まらせながら泣いていた。 僕はそっと小さな犬のにおいを嗅いだ。 薬のにおいと、悲しいにおいと、死んだにおいに交じって、僕のにおいがした。 それは僕だった。 どうやら僕は体から出てしまったみたいだった。 僕の体はとっても小さくなって死んでいた。 お父さんは僕が死んでしまったと思っているようだった。 元気になった僕はお父さんにも、お母さんにも、ようすけくんにも、僕は見えていないみたいだった。 みんなにとって僕は空気みたいになっているようだった。 最初は少し寂しかったけど、空気になった僕はおなかも減らないし、暑くも寒くもないし、いろんなことはあんまり関係ないから、あんまり考えないようにした。 お水の皿には毎朝おかあさんが並々に水を入れてくれた。 ごはん皿にはカリカリご飯の代わりにおやつが置かれていた。 寝床も、ひなたぼっこの場所もそのままだったので何も困ることはなかった。 その日はお休みの日だった。 お日様が昇ってもお父さんがうちにいるからきっとお休みの日だった。 お父さんは着替えてふらりと外に出た。 僕はお父さんにくっついて外に出た。
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