「たとえ、苦くても。」

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そう、遥の言う通り。 私には好きな人がいる。同じクラスの爽太(そうた)だ。名前の通りの爽やか男子。優しくて気さくで、いつも笑顔だ。当然クラスでも人気がある。 私が爽太を好きになったのには、性格の他にも理由があった。私にとって忘れられない、「ある人」に似ていたのだ。見た目はもちろん、雰囲気や仕草まで。爽太と一緒にいると、その人のことを思い出す。私が幼い頃、大好きだった彼のことを。 爽太を好きになって半年。 やっと仲良くなれたものの、消極的な私には告白する勇気なんてない。むろん、仮に勇気があったとしても、バレンタインというイベントに乗じて告白するつもりは全くなかった。 「まぁいいんだけどさ。今ドキ珍しいよ、バレンタインに参加しないなんて」 遥が溜め息混じりに私を見つめる。 「…そういう遥は今年どうするのよ。毎年『私は部活一筋だから』って、友チョコだけだったじゃない」 「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。今年は本命チョコを作って、憧れの先輩に告白しようと思ってるんだ♪」 「そうなんだ。…って、ええええぇぇ!??」 ガタンっ! 私が立ち上がると同時に、椅子が勢いよく後ろに倒れた。 クラス中から注目を浴びる。 「…ごめん」 謝りながら椅子を直す。 「もーう千代ってば!そんなに驚かないでよ」 遥は空いてる椅子を持ってきて、私の机に向けて座った。 「だってまさか、遥に春がくるなんて」 「あっはっは。気が早いって。うまくいくかもわかんないし」 「ううん。気持ちを伝えようってだけでも偉いよ」 「そうかな。…そこで本題なんだけどさ。千代、お願いがある」 「お願い?」 「今日の帰り、付き合ってほしい場所があるの」
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