ぼくは犬

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 かつては、ぼくは小谷家で暮していました。  俊平くんに出会ったのは、ぼくが生まれて六か月のときでした。駅前のペットショップの柵ごしに、小学六年生の俊平くんがぼくをのぞきこんだんです。  彼の目は白い部分が多く、瞳はきらきら輝いていました。ぼくが鼻を近づけると、ピーナッツの甘い匂いがしたのを覚えています。  ぼくは俊平くんを見つめかえしました。 「このヨークシャーテリアに決めた。ぼくが育てるんだ」  俊平くんは、お母さんらしき女性に、はしゃいだ様子で言いました。  ぼくは小さなカゴにうつされ、俊平くんの手で小谷家に運ばれました。お母さんが手伝おうとしましたが、「ぼくが連れて帰る」と俊平くんは断っていました。    俊平くんの自宅は、分譲マンションの五階のかど部屋にありました。そのマンションでは、小型犬だったら飼ってもよかったんです。  
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