ぼくは犬

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 カゴから出されたぼくは、新しい住まいを見まわしました。  ふかふかのカーペットがしかれた上に、ソファとガラステーブルが並び、大きなテレビが置かれていました。ベランダのガラス戸ごしに、うろこ雲を茜色にそめた夕日が、おだやかな日ざしで降りそそいでいました。  こんなに広い場所は生まれて初めてでした。    ぼくはガラステーブルのまわりをめぐり、あちこち匂いをかぎました。板の間ですべって鼻から転ぶと、俊平くんとお母さんに笑われました。  ぼくは恥ずかしくて、尻尾を脚のあいだにはさんだものです。    これからはここで暮すんだ、と幸せな気持ちになりました。  俊平くんがテーブルで宿題をはじめ、お母さんが夕飯のしたくに向かいました。ぼくは家のなかを冒険してみる気になりました。  扉のすきまを抜けて廊下に出ます。床に爪をたてると、かりかりすべって歩きにくいです。  廊下のとちゅうの開けはなされたドアの先は、タイル張りの小部屋でした。正面の窓から夕陽がななめに射しこんでいます。  
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