『友喰い・a』

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『友喰い・a』

「お寿司、行かない?」  二〇一六年六月十五日、夜。小川結依は前のめりになりながら自室のソファでスマホに語りかけた。  六月半ばといえば梅雨の真っ只中、つくば市南部の研究学園駅から徒歩七分のマンションでも、篠突く雨が窓をびしびしと叩いている。憂鬱な空模様の中にあって、しかし電話を続ける結依の声は浮かれていた。 「じゃあ日曜にお寿司ね。待ち合わせ場所はどうする? うん大丈夫、私の方で考えて送るから」  念を押すように繰り返して通話を切る。  彼女が上機嫌なのは同行する相手が誰だから、久方ぶりに会う旧友だとか彼氏だとか意中の男性だからというわけではなく、至極単純、寿司が食べたいのである。先の通話の相手も同性の短大同期だ。 「築地にもだいぶご無沙汰しちゃったな。でも、やっと行ける」  ここ二ヶ月ほどの研修と歓迎会の日々を思い返しながら、洋服ダンスの上に置いた卓上カレンダーに印を付ける。そこで思いのほか夜が更けていたことに気づいて手早くベッドに入ったのが、真夜中を少し回った頃のことであった。
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