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「週末はお寿司ー」
そうして一夜明ければいつも通りのバス出勤、いつも通りの職場である。金曜の重い足を週末の予定で鼓舞し、大型トラック用に広く作られた正門を抜け、正面の白い建屋へと歩いてゆく。
本館に銀で印字された『安西化成株式会社』の文字が朝陽に眩しい。
安西化成株式会社は東京に本社を、全国各地に生産拠点を有する中規模化学メーカーであり、ここつくば事業所も拠点のひとつにあたる。敷地の大部分は有機合成を中心としたプラントが占めているが、結依の所属は西側に位置する『研究棟』。
十年後、二十年後を見据えた基礎研究を行うこの施設には研究職の人間はもちろんのこと、研究活動をサポートする事務員もそれなりの数が配属されている。
リノリウムの階段を上がる結依もまた、この五月に配属された新人事務員のひとりだった。
結依が勤務する事務所は鉄筋コンクリート六階建ての二階に位置している。階段を上がりきり、カードキー認証のドアを先月支給されたばかりのIDカードで開けば、そこはようやく見慣れてきた職場の風景。
「いつっ……」
「あれ?」
目の前に、ドアに頭をぶつけた長身の男がいたことを除けば、だったが。
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