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バレンタイン目前に控えた俺たちのスーパーは、激戦区と化していた。
世の女性はバレンタインに向けて、チョコを買いあさっている。
高級トリュフ、可愛いパッケージのチョコレートが並ぶ前は、とても賑わっていた。
それなのに、俺たちの前は静まり返っている。
なんてことだ...。
「なぁなぁ。」
隣の奴が話しかけてきた。
「なんだよ。」
「いやぁ。どう思うよこの現状。」
「なんかなぁ。」
「俺たちも同じチョコなのにな。」
隣の奴は大きくため息をついた。
「ちょ、そんな大きなため息ついたら、お客さんに聞こえちゃうだろ!」
「あ、ごめん...。」
「俺らは、ただの板チョコなんだから、少しでも媚び売らないと...。」
その時、俺らの前を歩く女性の手にある生チョコと目が合ってしまった。
生チョコは得意げな顔をした。
「あーあ。これだから、嫌いなんだよ。バレンタインは。」
「生チョコも最初は俺たちの仲間だったのによ、環境が変わるとあんな鼻が高くなっちまうんだ。」
「なんてこった。」
そんな愚痴をこぼしていると、女子高生が俺のことを手に取った。
どうやら俺の背中に書いてある『バレンタイン簡単レシピ』を見ているらしい。
しばらく読んだあと、女子高生がまた俺のことを元の場所に戻した。
「やっぱ作るのめんどくさいや。」
「...いや買わんのかい!!!!!!!!」
「ドンマイ(笑)」
隣の奴がクスクスと笑う。
「いや、笑ってるけども!お前の方が危うくないか?」
「え?」
「だってお前ビターじゃん。俺は王道ミルク。」
しばらく黙った後、ビターは叫んだ。
「クッソおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
しかし、お客さんはチョコ選びに夢中で、俺らの声は一切届かないようだ。
「まあまあ。落ち着けよビター。」
「なんだよぉ。俺、もうバランタインなんざ、こりごりだよ...。」
「俺気づいたよ。俺たちは、シンプルでおしゃれでもなんでもないかもしれない。だけど、だからこそ、何にだってなれる...。それを誇りに思って生きてこうぜ。」
ビターは、顔を上げた。
「ミ、ミルク...!」
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