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図書館を出て信号待ちをしている時、私は中学の時のクラスメイトと出会ってしまう。嫌な事、悪口を言ってくる。私は無視を決め込んだ。早く信号が青になればいいのに。 突然、叫び声が聞こえる。声がした方を見ると、ヨシ君がアイツの首の後ろに空手チョップをしていた。私は驚いて勢いでアイツに言ってしまった。 「大丈夫?それと私の悪口言うの、やめて」アイツは見えない空手チョップと、私が言い返したことに驚いていた。 信号が青になった。私は自転車に乗り走り出した。ヨシ君が隣に飛んできた。 「ことりの悪口言うから、ちょっとだけ仕返し」そう言ってにっこり笑った。私もにっこり笑った。ヨシ君はきっと何も知らないけど、私は胸がすく思いがした。 「でも、アイツなんなの?」ヨシ君が聞いた。 「その話、長いけど暗いし、面白くないけど…」私は少し悩んでから話すことにした。  中学の時、ちょっといじめっぽいことがあった。成績がよくて目立っていたせいかもしれない。お弁当食べたり、班分けで一緒になったりする友達はいたけど、私はどんどんクラス内での地位が下がっていくのを感じた。そしてアイツの標的になってしまった。みんなの前で悪口を言われた。持ち物壊されるとか、暴力とかはなかった。それほどのことでもないのかもしれないし、それほどのことでもある。  先生に言ったらもっと酷いことになるかもと、我慢するしかなくて、両親にも言えなかった、不登校になることもできなかった。今から思うと誰かに言えばよかったのだけど。 毎日を憂鬱に過ごし、中学を卒業する日を待っていた。家に帰るといつもラジオを聞いた。人の話す声、同じ時間に同じ放送を聴いている人のリクエストとメッセージ。そこは私の暖かい場所になった。どんなに憂鬱でも、イヤホンを耳に突っ込んで音楽を聴けば、音楽で生活をくるめば、世界は映画のワンシーンの様になった。今は主人公が困難に遭うシーンで、いつかはハッピーエンドを迎えられるのだと思った。   そして高校生活はできるだけ目立たないようにすることにした。今は今しかないのに私は何をやっているのだろう。嫌なことは早く忘れたほうがいいのかもしれないけど、そんな簡単に消せるなら傷ついたりしない。いつかそんなことを、誰かにわかってほしいと思っても、誰もいなかった。そんな風に、誰もいない状況にしたのは私だった。誰とも何とも真剣に向かい合わない。私自身が自分をそこに追い込んだ。 ヨシ君は自転車の後ろの荷台に前を向いて座り、黙って私の話を聞いていた。自転車を漕ぎながら私は少し涙ぐんだ。泣いていると思われたくないから、何か言わなくちゃ、話そうとすると、私は後ろから抱きしめられた。背中に彼の額が当たる。 「ことりは悪くないよ、がんばったね」 私は何も言えなくなった。それに気付いたヨシ君は、少しの間黙っていた。そしてユーガットフレンドを小さく歌った。その歌は私を慰め、夕暮れは町中を緋色に染めた。    
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