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雨上がりの青い匂いがする。私達は橋の上を歩いている。橋を渡ると病院だ。爽やかな風が吹く。橋の下の川の水面に日が当たり、眩しくて目を細める。全てを幻に変えてしまいそうだ。 ラジオから「明日に架ける橋」が流れ、ヨシ君は一緒に歌っている。この歌声を独り占めできるのもあと少しだな、私はこの数日間を振り返り寂しく思った。本当は、春なんて嫌いだった。みんな楽しそうで、私は相変わらず一人で。 ヨシ君が現れて世界は少しずつ変わった。だけど、いつまでもヨシ君に守ってもらっているわけにはいかない。都合のいいままじゃいられない。夢の中に、妄想の中にいるわけにいかない。夢を見るのは素敵だけど、現実を夢に近づける努力をしなくちゃいけない。私もヨシ君も戻らなくちゃいけない。ヨシ君はラジオの向こうへ。私は現実へ。 病院の屋上に来た、この真下がヨシ君の病室だそうだ。なんだか懐かしい気がする屋上。夢で見たような気もする。 私はゆっくりと口を開く。お別れを言わなくちゃ。 「ヨシ君、ありがとう。私のこと救ってくれた」 「それはことりのがんばりだよ」 「また会えたらいいな」 「また会えるよ、いつでも電話して」 「嬉しい、でも頼ってしまいそうだから電話はやめとく。だから私がラジオDJになって、ラジオの向こうで会えたら、その時にまた電話番号教えて」 「わかった。俺はそれまでずっと歌っていられるように、今求められていることに応える。そして、今を楽しむよ。今は今しかないからね。待っているから。そろそろ行かなくちゃ」 ヨシ君はふわりと私を抱きしめた。 「ことり、ありがとう、また、歌える」 「私、ヨシ君のことが好きだよ」 「ありがとう …あ、虹」  そう言われ空を見ると、虹が架かっていた。七色の光の筋が綺麗に弧を描いている。次に視線を戻すと、ヨシ君は消えていた。彼は最後に何か言っていたような気がしたけど、聞こえなかった。   虹の終わりには宝物がある、昔どこかで誰かが教えてくれたな、でもそれを誰が教えてくれたのか、私は思い出せなかった。  
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