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「で、でも、こんな豪華のを見せたら、本命チョコを貰ったって勘違いされちゃうよ」
「いいじゃないか、勘違いさせれば」
「相手の名前とか聞かれたら? きっと嘘だってバレるよ」
「馬鹿だなぁ。適当に一年生に貰ったって言えばいいじゃないか。鈴木だったら何人かいそうだろう? なんなら俺の名前を出しても良いんだぜ」
「お前の名前を言ったら……あっ、苗字だったらバレないかもな。家でも瑛太って下の名前で呼んでるし、河合さんから貰ったって言えば騙せるかもしれない」
遠藤は嬉々として、家族を騙す案を練っていた。
「それじゃあ、決定ね。はい、交換」
遠藤の手にあるチョコをひったくって、叔母ちゃんのチョコと交換した。すると、遠藤が思わぬ行動に出た。
「あぁ、我が友よ。お前のお陰で俺は命拾いしたぜ」
不意打ちだった。いきなり抱き着かれて、体が硬直する思いだった。
「が、ガキかお前は。命拾いなんて大袈裟なんだよ」
「だってさぁ、この時期の俺は毎年ブルーなんだよ。それが今年はお前のお陰で、バレンタインデーの気分を味わえたんだ。チョコ屋の叔母ちゃんに感謝だよ」
「ったく……」
それから、非モテ男子二人は仲良く肩を組んで帰路に着いた。
「これって、何個入ってんのかな? 勿体ないから、一日一個ずつ食べようっと」
「お前は女子か?」
「うるせぇ」
俺は今、幸せなのかもしれない。たとえこの恋が実らなくとも、こいつの笑顔を見ているだけで満足だった。
だから、俺は心の中で神様に祈った――
もう少しだけ、こいつのそばにいさせてくださいと。
(終)
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