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一華に対する憎しみと対抗心を発端にして、一真のその旅は始まった。
寝首を掻いてやろう、罠を仕掛けてやろう、などと彼女を討つための計略を無数に用意した一真だが、それらの企てはことごとく、そして容易く打ち砕かれた。
その度、一真は一華の手によって半殺しの目に遭わされたが、彼女が怒りや苛立ちや悲しみなどの感情を込めて一真を攻撃することは決してなかった。あくまで冷静に、時折どこか楽しげに、容赦なく暴行を加えた。
それ以外の時間は彼女の旅の伴として、その後ろを歩き続けた。
一華の足は常に、闘いの中心を目指して進んだ。
強大な悪を討って苦しむ民を救ったかと思えば、英雄を殺して人々を混乱に陥れたりもする。
理由は分からないが、相対する者の強さだけが彼女の行動指針となっているようだ。一華は、その者の強ささえ確かであれば、流派も扱う武器も善も悪も関わりなく決闘を申し込んだ。そして彼女はその全てで勝利を収めた。
どんな時と相対した時でも、一華の強さは圧倒的だった。彼女の新たな一面を見せられる度、一真は自分の中にある常識の狭さを思い知らされることとなった。
次第に一真は、一華のことを真っ向勝負で負かしてやりたいと考えるようになった。ただ彼女を殺すだけでは、自分が自分を認めてやれないと思ったのだ。
そんな日々の中、求めていた相手が一華の期待に沿わなかった時は代わりに一真が相手をすることもあった。
当然、一真に命の危険が迫ることは幾度と無くあった。しかし、そのために一華が動くことは一度としてなかった。
闘いに明け暮れ、体を癒してまた闘う。交わす言葉の数よりも多く、誰かと刀を斬り結ぶ。そんな日々をひたすら繰り返す。
名も無き少年に一真という名が与えられてから、十年の月日が経過していた。
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