一真の章

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 一真は年を経て、立派な青年に成長していた。  それは外見上のものだけではなく、剣の腕も大きな成長を見せていた。  旅が始まったばかりの頃は、一華に挑み半殺しにされ、回復を待って挑んでは半殺しにされるという生活が続いていたが、今では一流の剣豪として一華と遜色ない域にまで達していた。  一華に出来て自分に出来ないものはない。最近の一真はそんな風に感じるようになっていた。  しかし、もう随分長いこと一華とは剣を交えていない。一真が彼女に挑むことが無くなったのだ。  理由はただ一つ、一華の動きに確実な衰えが見てとれたためだ。  もちろん、今でも一華は一真がこれまで出会ってきたあらゆる剣士を上回る力を持っている。しかし、以前よりは確実に下回っている。そして今もなお着実に能力は低下し続けている。  一華本人も、坂道を転がるように加速していく衰退についてはっきりと認識しているはずだ。そんな彼女の心境を思うと、昔のように無邪気に勝負を挑もうとは思えなくなってしまうのだった。
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