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その日も二人は、強者との闘いを求めて旅を続けていた。
今回の相手は近辺では名の知れた山賊、その頭領だ。アジトに押し入り、標的を打ち負かすころまでは良かった。だが、その後手下達に逃げ道を塞がれてしまった。
敵は総勢で百人か二百人は下らない。一真と一華それぞれを取り囲んで襲いかかってくる。
二人にしてみれば個々は取るに足らない雑兵だが、肩がぶつかり合うほどの密度で群がっているとなると話が変わってくる。こういった闘いでは、強者との一対一とは違った能力が求められるのだ。
一度犯した失敗を取り戻すことは難しく、目の前の一人を倒しても、判断を誤れば状況が悪化し、死は近づいてくる。
そんな闘いの最中、目の前の敵を斬り捨てて次の者を迎え撃つまでの僅かな時間、一真は気まぐれに一華の方に意識を向けた。
「一華っ!!」
一華のすぐ後ろまで、刀を振り上げた男が迫っていた。とっさに声をあげたが、彼女の手では間に合わない。
一真は腰に提げた脇差しを投擲して、一華に襲いかかる敵を背中から射抜く。脇差しは的確に急所を捉え、敵はその場に崩れ落ちる。
間一髪だった。
今の彼女の隙は、意図的に作られたものではない。完全に虚を突かれていた。一真が動かなければ、一華の頭部は二つにかち割られていたはずだ。
「一真……」
自分が命を救われたのだということを理解した一華は、一真が今まで見たことがないほど動揺を露にしていた。
「ぼやっとするな、次だ!」
「え、ええ……」
今生まれた隙により状況は大きく不利に傾くだろう。二人もろとも命を落とすことに繋がりかねない行為だが、一真にとっては目の前の危機を脱することの方が先決だった。
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