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「はぁ、はぁ……危なかった……」
全ての敵を斬り伏せた後。荒い呼吸を整えながら、一真は刀を納める。
今までで一番の危機だった。一華の様子に意識を割いているために小さな隙が幾つも生まれ、何度も戦況が傾きかけた。
「ひとまず、これで体を休められるな……」
一息ついた一真の隣で、一華は刀を握ったまま呆然と立ち尽くしていた。
彼女の様子に違和感を感じた次の刹那、一華の刀が月の光を反射してきらめいた。
「っっ!?」
稲妻が走るような鋭さで、一華の刀が一真を襲った。
倒れこみながらその一太刀をかわし、そのまま地面を転がって一華と距離を作る。
「……何のつもりだ」
それは幼い一真に教示の一環として繰り返し行われてきた、戯れめいた一撃ではなかった。そこには明確な殺意があり、躊躇いは感じられなかった。
「刀を抜いて、一真。でないと死んでしまいますよ」
「理由を聞いているんだ、俺は」
「刀を抜きなさい」
一華は間合いを詰めて追撃を加えてくる。
その攻撃も次の攻撃も、一真の命を奪うために繰り出された必殺の太刀だった。回避が間に合わないと悟った一真は、刀を抜いて一華の刀を受け止める。
「待て、どうして今なんだ。体を休めてからでもいいだろう!」
「敵はいつでも、あなたにとって都合の悪い時に襲ってくるものですよ」
何のつもりかは分からないが、どうやら交渉で解決することは難しいようだ。
背を向ければ命はない。彼女がその気だというなら、今の自分には応戦する以外に手立てはなかった。一真は覚悟を決め、刀を構える。
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