一真の章

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 「……本当に死んじまった」  一華の息づかいも、気配も、もう感じることはできなかった。  一真は立ち上がって服についた砂埃を払い、彼女から受け取った刀を腰に差してみる。  不思議な感覚だ。そうやって身に付けるのは初めてのことだというのに、その刀は自分の体によく馴染んでような気がした。  その時、目の前の空間が一部切り取られ、あらゆる光が失われた。それ以外に表現の仕方のない現象が起こった。  「っ!!」  ぽっかりと現れた闇を前に一真は困惑し、数歩退いた。  何かがそこにある、という感じではない。そこだけあらゆる物が存在していないのだ。  その空間の周囲をぐるりと回ったり、色々試したりしてみて、一真はその概要をなんとなくつかむ。  向日葵の種を人間大程度まで大きくしたような形状をしたこの闇は、今自分がいる場所とは完全に独立している。例えば、この中へ足元に転がる小石を力いっぱい投げ込んでみる。すると小石は、闇の向こう側の空間に現れることもなく、ただこの場所から消失する。  これはやはり、刀が持つという魔の力によって生まれたものなのだろうか。  そっと中を覗いてみる。真っ暗な空間が広がっている。どんな方向に広がっているのか、どれだけの広さかもわからない。しかし、遥か遠くに光の点が見える。  指先で触れると、わずかな抵抗を感じながら体がその闇の中へ滑り込んでいく。  (刀の導きとはこの先にあるものを指しているのか……?)  それとなく視線を下ろした一真は息をのんだ。  一華の姿がどこにもない。いや、消えてなくなったわけではない。一真がその暗闇に目を奪われていたわずかな間に、彼女の体は砂粒のような砂や灰のような細かい粒子に変貌し、その場に積み上がっていたのだ。  『あなたの求めている答えにたどり着けるかもしれません』……一華のその言葉が一真の背を押した。  それから一真は足下の灰に手を伸ばしかけ、しばらく考えてそれを止め、闇の中へと歩を進め始めた。
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