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美しい女性だった。年の頃は恐らく二十代半ば、凛々しくも穏やかなその顔は淡い微笑みを湛えているように見えた。
身には袴をまとい、長い髪は緩めに結って垂らしている。そして際立った存在感を主張しているのは、腰に提げられた一振りの刀だ。
武士に憧れた女がその格好だけを真似た様な、酔狂とも言えるその出で立ちを前にして、賊達の間にはニヤニヤとした笑みが蔓延する。
「なんだねーちゃん。あんた、このガキの知り合いか」
「いいえ。知り合いではありません」
女の視線が少年へと向けられていた。
「ですが、よってたかって子供を袋叩きというのは見ていて気持ちの良いものではありませんね」
「こっちにも事情があるんだよ。ガキ一人にコケにされたままじゃ、俺たちのメンツに傷が付く」
「ガキ一人を袋叩きにすることで付く傷については考慮しないのですか。まったく、下らない人達……あ、私にコケにされたままではあなた方のメンツに関わるのではないのです?」
そう言いながら、女が刀を抜いた。空気が緊張を孕んだものへ変わり、賊達は臨戦体勢に移る。
「てめぇ……どういうつもりだ」
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