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いつの間にか意識を失っていたようだ。すでに日は落ち、空には輝く星々がひしめいている。少年は、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐるのを感じた。
体を起こしてみると、先程の女が焚き火の脇に腰を下ろしている。
そして彼女の前では、小麦色の塊を串刺しにした枝が、地面に突き立てられていた。動物の肉だ。ウサギかカエルか……それに類する何かだと少年は思った。
「食べますか」
「…………」
少年はそれを見つめる。腹が減っていた。ちょうどいい加減に焼き上がり、滴るほどに油の乗ったその肉を見ていると、口の中は唾液でいっぱいになっていく。
「お腹が空いているんでしょう。ほら」
女は地面から枝を引き抜いて少年に差し出した。
「く……」
少年は痛む体に鞭を打ちながら立ち上がり、その肉を引ったくる。女から十分に離れた場所に移動して、それにかぶり付く。
美味かった。これまで食べてきたどんなものとも比べられないほどの味だった。少年は無心でそれを貪った。食べ終えた後には、骨だけが残った。
少年が肉を食らっている最中も、それが終わってからも、女は口を閉ざしその姿を見つめていた。
何となく少年は、自分が話し出すのを彼女が待っているような気がした。
「なぜ俺を……殺さなかった」
「……私でなくても殺せるものを私の手で殺すのは、面白くないと思いました」
「だったら放っておけばいい。なぜ情けを掛けるような真似をする」
少年は軋む音を立てるほどの強さで骨を握りしめていた。
「……泣いていました」
ぽつり、と女が呟く。
「すべてが通じず、後は私になぶられるだけだと悟った時、あなたは涙を流していました」
「だからなんだっていうんだ」
「……そうだ、闘い方を教えてあげましょうか」
「闘い方……?」
まるで脈絡のない、思いもよらぬ提案に少年は目を見開く。
「強くなりたくはないですか。私に負けたのが悔しいのですよね?あの時、あなたが何を思ったかは知りませんが……少なくとも強くさえあればあんな思いはしなくて済みます」
「……なんのつもりだ」
「気まぐれですよ。あなたを生かしたことと同じようにね。師匠、と言うほど世話を焼く気はありませんけど、喧嘩相手くらいにはなってあげますよ。もちろん、あなたが望むのならですが」
余裕を感じさせる笑みを浮かべたまま、女はそう言った。
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