嘘つき

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用をすませ、鏡の前に立って手を洗う。 顔をあげると、そこには感情を削ぎ落としたような、真顔の自分が立っていて。 (……笑顔、笑顔作らなきゃ) キュッと目を閉じる。頭の中で血液がドクドクと音をたてて、視界が真っ暗になり、めまいがした。 洗面台に手を付き、自分を支える。 そのまま、グルグル回るような感覚をやり過ごしていると、カチャリとトイレの入口のドアが開く音がした。 「文、大丈夫?」 目を開き、ゆっくり振り返る。 「……うん。平気。ちょっと立ち眩みしただけ」 そこに立っていたのは香住で、彼女は私に近づくと、顔を曇らせうつむいた。 「どうしたの?」 ハンカチで手を拭きながら尋ねる。 香住はしばらく逡巡(しゅんじゅん)したあと、思いきったように、顔をあげて口を開いた。 「あのさ……ちょっと前から気になってることがあって。 今、少し、いいかな?」
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