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「いずれにしろ、教え方が良かったんだな。
本城は男女両方社交ダンス踊れるし、両方教えてるもんな」
「おかげで男役ばっかで筋肉ムキムキになっちゃって、
ドレス着て手足出すと、めっちゃ浮くけどね」
「生徒のおばさま連に俺よりモテモテの人気講師だし」
「ふふ、ダンスのことになると雄弁だよね、秋島は」
「でもさ、クラシック踊ってる本城が、やっぱり一番綺麗だよな」
「……なに、いきなり」
「え? 言葉通りの意味だけど……あ、誤解すんなよ、俺には弥生がいるからな!」
「ばーか」
「今日お前がみんなと踊るの見てて、改めて思ったよ。
ノリノリのリズムで踊るより、情感込めてゆったり踊るのが、やっぱり一番イイよな本城は。一番華がある」
「はは、口説いてんの? 何にも出ないよ」
「だから素直な感想だってば。
弥生も言ってた。
『蘭ちゃんの踊りはホントにホントに綺麗なんだ』って」
「え……」
「クラシックやめる、って弥生に打ち明けた時、お前、へらへら笑ってたんだってな。
お前が帰ってから、弥生は悔しくて大泣きしたらしいじゃん。
『背丈を自分と取り替えてあげたかった。
蘭ちゃんが泣かないから、私が代わりに泣きたいだけ泣くんだ』って」
「……」
「弥生にも見せてやれよ、今スクールでクラシック踊ってるとこ。
ARASHI踊って見せるより、絶対喜ぶんじゃないのかな、あいつ」
「……だから秋島のことが嫌いなんだよ、あたしは」
「え! なに、嫌われてたの?俺」
「……ばーか」
弥生。
あの時あんた、へらっと笑って口にしたあたしのクラシック断念を、ニコニコ笑って聞いてたよね。
『蘭ちゃんだったら、もっともっと素敵に踊れるダンスが他にもきっとあるよ』って、笑ったよね?
弥生の笑顔は、強い。
ひ弱な、ただ優しいだけの笑顔じゃない。
弥生自身が、いつも命の危険や苦しみと隣り合わせにいるから、なのかな。
その強い光みたいな笑顔に、
諦めじゃなくて、希望を感じる。
力を感じる。
だからみんなが惹かれるんだ。
秋島は……悔しいことに、けっこう良い奴だ。
弥生は、こいつになら、自分の弱い部分を見せられるんだね。
ちくしょ、やっぱ嫌な奴だよ秋島、あんたは。
大切な大切な弥生を、
譲ってもいいかな、って、
このあたしにそんなことを、
思わせるくらいには。
そして結婚式当日が、とうとうやって来た。
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