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風は冷たかったが、日差しが強く、重い荷物を引きずっている身には暑過ぎた。
ほとんど誰も入る事がない山奥に絵に描いたように大きな、城、といったほうが正しいか。
大きさや形からして、城といったほうが正しいだろう。
車すら入れない細い道をかき分けて進んだ先に出迎えてくれたのは、黒い大きな鉄格子の門だった。
立派な門に比例するかのように、そのあとには広大な庭が続き、そしてすべてを見渡すかのように、後方に城が構えている。
その城は、正面から見て特に右側全体にひび割れや、窓が割れていたりとひどく朽ちて崩れそうになっているように見えた。
老朽化が激しいせいだろうか。それとも。
予めネットから写真を見ていたが、手入れされていないことから廃れているその佇まいはマンガやゲームの世界にしかありえないと思わせるほどで、きっと誰かが多少なりとも加工したものなのだろうと思っていたが、今こうして目の当たりにして、それは全く手のくわえられていない写真だったのだと悟ることになった。
「本当に、よろしいんですか」
不意に話しかけられてハッとする。そうだ、ここに一人で目的もなく来たわけではなかったのだ。
「事前にお話しさせていただきました通り、手入れも全くされておりませんで、とても人が住める状態ではないのですが」
いまどき珍しい牛乳瓶の底のような丸い淵の眼鏡で、小太りの背広を着た男がもはや額と髪の毛の境目がわからなくなっているような頭部に滴る汗を、ハンカチで拭いながらそう言った。
「僕は構わないんですが、本当にいいんですか。こんなに立派な建物なのに、ほぼ無償のようなものじゃないですか」
「ここが建った当時はまさか、こんなことになるとは思ってもみなかったのですが…。こんなところをリゾート開発地にしようとした罰が当たったんだと思って。仕方ないですよね」
男がそう言って、ふっくらした顔をくしゃくしゃにして作り笑いを見せる。
「今までいわくつきの家でも何軒か売ってきましたが、もうここは、ほら…その…別物でしょう」
「【ギグル】ですか」
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