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下の階から屋外段数の段数を数えながら上ってきた男、段原。途中の踊り場で寝てしまった段原は、起きてから再び段数を延々と数えながら上っていく。すると、上の階から段数を数えながら女が降りてきた。女が美人で段原は機嫌がよくなる。なぜ階段を数えているのか、たがいに聞く二人。ともに「段数を数える仕事」だと判明した。ひとしきり会話すると、女は数えながら階段を降りていった。段原も再び階段を数えながら上っていく。
ふと、女のことが気になり振り返り、階段を降りる段原。すると下の階の踊り場で女が死んでいた。驚いた段原は女にかけよろうとするが、毒ガスが充満していることに気付く。あわてて上の階に上っていく段原。最上段までのぼりつめると、屋上には段原に仕事を依頼した男、金澤がいた。
「この仕事は古いビルの保守点検の一環だと、君には最初に説明した。実は、人間の行動を監視する実験をしていたのだ。ランダムに男女を選び、緊急事態における人間の行動を観察していた。女は死んでおらず眠っていただけだ。君は最後までよく段数を数えた。だが、女と同様に途中の踊り場で眠っている。この仕事をやる人間がほとんど途中の踊り場で眠る。段数を数えるだけで給料がもらえるなんて楽な仕事は、裏があると考えるべきだ。今後は騙されないように気をつけろ。では給料を渡す」
そう言って、金澤は段原に給料が入った封筒を手渡し、その場を去った。屋上から見る空は、雲一つなく晴れていた。茫然としながら、階段を降りて帰路につく段原。地上まで降りると、先程の女がいた。無事に給料を得た段原と女は、意気投合。二人でパチンコに行き、もらった給料を使い果たす。
2人の様子をこっそりと遠くから見ていた金澤はつぶやく。
「階段を数えることで地道な仕事の尊さを教えたつもりだが、ダメな奴はやはりダメだな。今度はもっと過酷な労働をやらせて監視してやろう」
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