第1章

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 ――スマホが鳴った。  裕史はおそるおそるスマホの画面を操作し、電話に出た。 『健一くんのこと知ってるか。お前が殺した名だよ』  心の臓が、早鐘のように打ち鳴らされる。 『護衛は倒した。暗闇にして、襲撃犯のような音声を流したら勝手に戦闘してくれて助かったよ。実は録音された銃声だと気づかずにな。で、外に逃げたかのように音声を流したらこれも引っ掛かってくれた。もちろん、残ったのもいたが、オレの敵じゃないな。ぞうきんで転がしてやった』 「な、何を言って」 『下に来てみろよ』  裕史のごくっ、唾を飲み込んだ。  こいつ、何を言っている。  まるで、大勢いた手下どもが、全部やられたかのように言った。全部、どうにかしてやったというかのような……裕史はおそるおそるドアを開けて、階段を下りて一階へ。  窓ガラスは割れて、庭にあるプールがのぞける。  芝生には倒れてる護衛が数名、室内にも倒れてるのが数名。どいつもこいつも、トラップらしいもので倒されたようだ。古典的なぞうきんですべらせるものから、多種多様にある。 「……お前、何者だよ」 『貴様を裁きに来た、といえばかっこいいが。なーに、しがない探偵だよ。自首をすすめにきた』  裕史は意識がどこかへ吹っ飛びそうだった。  絶対にバレることはないと思っていたひき逃げ事件。それが、どういうルートから分からないが発覚してしまい、そして、こうやって追い詰められている。  漫画やドラマのワンシーンのようだ。自分が悪役で、この電話の主は言うなら正義のヒーローか。 「い、いやだ」  あまりにも、みじめ。  このとき、彼のクチから出た言葉は紛れもなく本心だった。あまりにもみじめで、情けなくて、どうしようもないと自分で思いながら、だからこそ出てきた本音だった。地獄に堕ちた方がいいと感じながらも、彼は言った。刑務所なんかに入りたくない、と。どうしようもない本心が出たからこそ、出てきてしまった己の正体。 『別にお前を責めるつもりはないよ。人間だけじゃなく、動物にだってそういう奴はいる。分かっていながらも、大きな罪だからこそ許容できない。それを認めたら、罪悪感に蝕まれて死んでしまうと知っているから。……そういう奴はいくらも見てきた。だからこそ、言うぜ。お前の気持ちを分かった上で言うぜ』  てめーが泣かした奴等のこと考えろ。 「う、うわああああああああああああっ!」
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