第1章

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 突如、車庫にあった車にエンジンがかかり、庭を猛スピードで走って窓ガラスを突き破り、侵入してきた。 『安心しろ。手下たちは殺さないようにしておく。だが、元凶はどうかな』 「うわ、あああああああああああああっ」  裕史は慌てて二階へあがる。 『いいのかい? そこは墓場だぜ』  だが、二階のドアを開けた途端、部屋を車がつきぬけた。どうやら、ジャンプしてここまで来たらしい。 「あ、あぁ・・・」  車は、裕史の一歩手前で止まる。 『もう一度、聞こうか。自首しようぜ』  008  事件は無事解決した。  ひき逃げ犯は、警察が動こうにも動けない状態で悔しがっていたところに自首してきた。これは彼をかばおうとしていた組だけじゃなく、警察も驚きだ。正直な話、捕まえるのは無理だとあきらめていたのにだ。 『ありがとう、探偵おじさん!』  あのゴールデンレトリバー。いや、ケンジのとこに行くと、彼は散歩に向かう最中だった。 「え――犬?」  ケンイチの母親だろうか。  若そうに見える女性は、クチをぽかんと開けていた。犬が、かわいらしい柴犬が、まるで猫のように塀の上を歩いていたからだ。 『大丈夫そうだな』 『うん、おかげさまで……ありがとね。犯人が捕まって、ほんとによかったよ」  母親の混乱を知らずに、犬たちは語り合う。 『でも、探偵さん。報酬はいつも美女のキスなんでしょ。ごめんね、タダ働きにしちゃって』 『別に仕事したつもりはねーよ。こんなの、ちょっとした散歩さ。オレも気にくわなかっただけだ』  と、去ろうとする、わんこ探偵。  だが、ケンジが呼び止める。 『探偵さん』 『あ?』 『ありがとう、ね』  わんこ探偵は、あぁ、とだけ返答した。  それ以上は、答えられない。ケンジがこれから受け止めなければならない現実に、彼も呑まれてしまいそうだった。  009  わんこ探偵は、犯人も自首させたし、最後に依頼人というか、依頼犬というか。正確には犯人を自首させるのも依頼されたわけじゃないが、ともかく、今回のきっかけとなった犬との別れも終わり、バーにもどった。  まだお昼前で、店は開いてなかったから裏口から。店主であるマスターは、ドアを鳴らすと出てきた。 「おう、相棒。お疲れの様子だな。ったく、探偵なんか犬のやることじゃないぜ」 『人間にゆずるには、惜しい仕事だよ』
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