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オレを、わんこと呼ぶ奴はぶっ殺す。
そう彼は決めていた。
茶色い毛並みに、豆粒のような体格、しかしその内側にある心意気だけは立派なもので、ハァハァと舌を出して笑ってるようでも、内心は人間に全く媚を売らず、誇り高いプライドを持っていた。
彼は探偵と名乗っている。
首輪の代わりにしてる首巻きは、日毎に変わる。今夜彼がつけてるのは、七色の首巻きだ。
今夜。
街から離れた郊外にある廃墟で、待ち構えていた。薄汚れて静閑とした廃墟。そこに一つ、二つと足音が並ぶ。どれも革靴。彼らは喪服のようなスーツを着込み、一人はアタッシュケースを大事そうに抱え、数名はそれを守るように囲んでいる。
『悪党はどうしてこういうとこが好きかねぇ。それ、麻薬だろ?』
静閑を切り裂く、野太い声。黒服の男たちは即座に反応し、物騒な拳銃を辺りに向ける。
しかし、人影はない。彼らは知らない。よく探せば、暗闇のなかに柴犬の姿は見つけられたかもしれないのに。
声は、彼らが持つスマホから鳴っていた。
『お前らを警察に出したとこで、どうせ捕まえられない。人間のどうでもいい掟があるんだろ。いいよ。それなら、お前らを違うとこに売る。お前らが敵対してる勢力の一つだ。ほら、そろそろ音が聞こえるだろ?』男の一人がスマホから鳴ってるのに気づいたが、もう遅い。エンジン音が近づいてくる。『毒には毒を。裏社会の住人には、ふさわしい結末だろ? 残念だったな。それ、高値で売れただろうに、獰猛な奴等が牙をむき出しにしてるぜ』
そして、はっはっはっ、と高笑いして声は途絶える。
黒服たちは困惑する暇もなく、出した拳銃を発砲するはめになった。どうやら、彼らが敵対してるのは海外勢力らしく、静かな廃墟がアクション映画の舞台に変貌した。
『その麻薬のせいで、泣いた奴がいるんだ。だから、これはその代償だ』
少しは反省しな。
そう言い残し、彼は去っていった。ちなみに、警察にも通報してるので、すぐに来るだろう。いくら何でも銃撃戦ともなれば、つまらぬ掟も出る暇はない。
しっぽをフリフリ、テクテクと、短い足で歩いていく。
彼は柴犬。
目はつぶらで、かわいらしい、しかし中身はハードボイルド。街にすむ動物たちの間では、探偵と呼ばれている。
そう、彼は犬の探偵である。
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