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わんこ探偵と呼ぶとぶっ殺されるが、彼に知られぬのだから、彼をわんこ探偵と呼ぶ。さて、わんこ探偵にも名前がある。
名は、マモル。
昔はごく普通の飼い犬であり、夫を亡くした老婆の下で暮らしていた。しかし、あまりにも溺愛されてへとへとになり、彼は脱走した。
(ったく、猫は仁義がねぇが、色気だけはありやがる。仕事は済んだぜと報告したら、報酬だけ残して去りやがった。少しばかり、悲哀にくれた目を見せてな。ったく、色気だけはありやがる)
わんこ探偵は、夜の繁華街の路地裏から路地裏へと渡り歩いていく。いくら、わんこ探偵といえども、見た目はそこらの犬と変わらない。かわいらしい、柴犬である。そして首輪のされてない犬は即座に保健所。人の目をかいくぐり、能力で繁華街にある監視カメラに干渉し、機械の目から逃れた。
彼は、いつしか特殊能力を身に付けていた。理由は定かではない。
だが、あの老婆の下にいたときにはなかった。こんなもの。自由の舞台に躍り出たら、神様がせめてもの餞別だと言わんばかりに、この能力を得たのだ。
電子機器に電波のようなものを発するのか、干渉することができる。だから、廃墟で黒服たちの持つスマホから声を出せたし、監視カメラの映像を編集したり、カメラの向きも変えることができる。それだけじゃなく、知能も向上したようで、電子機器を通じて人間と話すことも、可能だ。
彼は、今飼われているわけじゃない。
「おや、マスターのペットが帰ってきたよ。こいつ、いつもどこに行ってんの?」
わんこ探偵は、バーにもどる。
バーの店内は小さく、廊下のように細長いとこにカウンターと座席、そしていくつもの種類の酒やつまみ、それを操るバーテンダーのマスター。数名のお客ぐらいだ。
マスターは五十代くらいの初老の男で、髪はふさふさだが白髪が増え始めてる。顔つきは精悍で、とても定年退職後には見えない。しかし、若げのある顔が浮かべる表情には深みがあり、このバーには似合う。
天井のライトは深夜でもバーを照らし、客が持つグラスに光を反射させる。テクテクと、わんこ探偵は客を無視して一番奥の座席へのぼり、座ってミルクが来るのを待つ。
「そいつはペットじゃない。ただの相棒だよ」
「相棒? マスターも奇妙なこというね」
「奇妙なものか。楽しいんだよ、あいつとつるむと」
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