第1章

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 ネオンに照らされることもなく、路地裏の闇から闇へ、わんこ探偵はさまよい歩く。残飯漁りなどはしないが、特定の住居はない。いつも、そこら辺の道端か、不法侵入ではあるが建物の屋上に入り、寝床としている。風来坊といえば聞こえはいいが、ホームレスそのものだ。 (探偵をしてるわけか)  確かに、自分は無敵でもなければ不死身でもない。特殊な能力はあるが、ただそれだけだ。それ以外はそこら辺の柴犬と何ら変わりない。特別強いわけでもないし、体力も優れてるわけじゃない。 (それなのに、どうして探偵なんかやるんだ。人間を相手どることも多いのに、命がいくつあっても足りないだろ。それなのに、何故)  どうして、と雑居ビルの屋上にのぼり、自問自答していた。 (誰かの、誰かの涙を無視できねーからかな)  ちなみに、老婆には手紙は送っている。手紙というか、ファックスだ。ファックスを操り、彼は手紙を書いた。犬は無事に生活してる。だから、心配するなと。しかし、逆にそれが老婆を不審がらせ、心配させてしまったりしたが。 (ただの犬として幸せになれたかもしれないのに。どうして、オレはそれを捨てて探偵なんかになったかね)  そのワケを探すように、彼は明日も探偵を続けると、横に丸まって眠りについた。  003  それから数日後の朝。  雨が降りそうな曇り空。季節は一月で、元旦をすぎて、春の気配が待ち遠しくなる時期。冬は終わろうとしてるはずなのに寒さを一段と強くして、道端を歩くサラリーマンやOLを震えさせていた。  わんこ探偵は日中、人目につく通りを歩いたりはしない。基本は夜型なのだが、今日は違っていた。人の群れをぬけて、歩道を歩く。今日の首巻きはイエロー。ときおり、車の音も耳にする。その中には救急車の音も紛れていた。彼はてくてく歩き、そして、ひもをガードレールに結ばれていた犬に話しかけた。  年は若そうだが、わんこ探偵よりも大きなゴールデンレトリバーだ。 『捨てられたのか?』 『え、あ、違うよ! ひどいこと言うね、おじさん』  お、おじさん。  わんこ探偵は、内心イラッとしたが顔には出さない。つぶらな瞳をまっすぐに向けているだけ。
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