0人が本棚に入れています
本棚に追加
「目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。」
「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった。」
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」
小説の冒頭はどれも人々の記憶に強く刻まれ、
日本文学を代表する作品として名を連ねた。
文壇を揺るがした小説、「伊豆の踊り場」
「目覚めるとそこは階段の踊り場だった」
そこから始まるユーモアに溢れたストーリーと
作者本人の苦労話を重ねた伊豆の踊り場は世代を問わず受け入れられ、
その年の流行語大賞に選ばれるまでになった。
作家、津田陽平。
新進気鋭の彼は時代の寵児と囃された。
…が、彼は伊豆の踊り場を書いていない。
同姓同名の小説家志望の男が書いた物が
郵送事故で入れ違い、アパートの隣に住む
同じ「津田陽平」が手違いで受賞した事になり話が進んでしまった。
書いた当人はこの事故に世を儚んで自殺、
背後霊として同じ「津田」に憑いて絶賛怨み中。
ドラマや映画、漫画化の話があれよあれよと進み
偽の津田は有頂天に登る、どころか
どんどん本当の津田の恨みが募って小さなバチが当たり続ける。
何より、周りには見えないはずの怨めしい"津田陽平"が
"津田陽平"にだけは見えている。
かくして同姓同名、人間と幽霊、大ボラ吹きと元小説家の共同生活が始まった。
そんな折、担当編集の佐久間が
事の顛末に徐々に気付き始める…。
最初のコメントを投稿しよう!