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ふと目が覚めると、主人公は階段の踊り場に横たわっていた。手足をしばられ、身動きできない。眠らされて誘拐犯に連れてこられたのだ。誘拐犯がビルの中からあらわれ、ビル内に主人公を入れて鍵をしめる。犯人はどうやら外にいる警官に向かって何かを言っている。自分が人質にとられて、つくづく主人公らしくない人生だと嘆く主人公。
ふと、犯人の顔をよく見ると大学時代の同級生、生田だったことに気付く。小学生時代の思い出話をしつつ、なぜ自分を人質にしたのか?と問う主人公。犯人の同級生は口をにごす。やがて、ドアが蹴破られて警官が入ってきて犯人はその場で逮捕された。解放されてほっとする主人公。しかし、妙に様子がおかしい。
「さすが!作家になる男は演技もうまい!」
明かりがつき、おめでとう!の拍手が鳴り響く。今日は主人公がかつて書いたデビュー作の小説の発売10周年記念日だった。犯人役の同級生らがエキストラとなり、一芝居うってサプライズパーティーを開いてくれたのだ。
「小説に書かれてる内容を再現したんだけれど途中で笑いそうになった!」と笑顔の犯人役、生田。主人公は過去に何本も作品を執筆していたので、自分がかつて書いたものを忘れていた。ここ数年は書いても売れず、困窮していたので自分が作家である自覚もなかった。ゆえに、サプライズには全く気付かなかった。
生田から手渡され久しぶりにデビュー作を読み、今の自分が忘れていたことを思い出す主人公。
「階段の踊り場で目を覚ます。そう、俺はまだのぼりはじめたばかりだ」
10年前、自分が書いた台詞に励まされ、主人公は泣いた。生田ら友人達に励まされ、新たな作品を執筆する主人公。彼は、自分の人生の真の主人公になろうと決意するのだった。
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